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広島地方裁判所 昭和33年(ワ)791号 判決 1961年1月13日

原告

株式会社三篠タクシー

被告

大野浦太郎

主文

被告は、原告に対し、金一五三、〇六〇円およびこれに対する昭和三三年一二月一五日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払うこと。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は、原告において金四〇、〇〇〇円の担保を供するときは、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

(原告の請求の趣旨)

被告は、原告に対し、金三二九、〇二九円およびこれに対する昭和三三年一二月一五日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

(請求の原因)

(一)原告は、いわゆるタクシー業を営む株式会社である。

(二)昭和三三年一〇月一七日午後一〇時一〇分頃、原告会社所属の運転手訴外坂本進が原告所有の営業用乗用自動車(五八年型ダツトサン。広五あ第二〇七二号)を運転して広島市基町一番地朝日会館東南角道路上を紙屋町から八丁堀方面に向つて進行中、被告はその運転するトヨタ小型四輪貨物自動車を原告の右自動車に追突せしめ、よつて、リヤバンパー折損、ボデー後部歪曲、右側ドア屈折、テールパイプ折損等の損傷をこうむらしめた。

右追突事故は、被告が前方注視義務を怠つたため、前方を進行中の原告の自動車を避譲することができなかつたことによるもので、被告の過失に起因するから、被告はこれによつて生じた損害を賠償する義務がある。

(三)右事故によつて、原告のこうむつた損害は、次のとおりである。

(イ)右事故車の破損を修理し、昭和三三年一一月三〇日その修理代金として金三八、七〇〇円を訴外前田自動車株式会社に支払つた。

(ロ)右修理のため、昭和三三年一〇月一八日から同年一一月一八日まで三二日間事故車の運転を休止した。しかるところ、右自動車による営業上の純益は一日金四、八六〇円であるから、右運転休止により合計金一五五、五二〇円の得べかりし利益を失つたこととなる。

(ハ)本件自動車は、右修理完了後においても同一程度使用した無事故車に比し金一五二、六七〇円の価格低下を招いた。したがつて、これもまた本件事故による損害といわなければならない。

(四)よつて、被告に対し、右(三)(イ)の金三八、七〇〇円、(三)(ロ)の金一五五、五二〇円、(三)(ハ)の金一五二、六七〇円のうち金一三四、八〇九円、以上合計金三二九、〇二九円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和三三年一二月一五日から支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による損害金の支払を求める。

(被告の答弁および主張)

(一)請求棄却の判決を求める。

(二)請求原因(一)は認める。(二)のうち原告主張の日時原・被告の自動車が接触事故を起したことは認めるが、これが被告の過失に基くものであることは否認する。原告の自動車の損傷の部位、程度は知らない。(三)は知らない。

(三)本件事故の原因は,被告が朝日会館前の電車通りを紙屋町から八丁堀方面に進行中原告会社の自動車が朝日会館東側を南北に通ずる道路から突然右電車通りに進出し、被告の自動車の直前で八丁堀方面に向つて大まわりしたためその車体後部右側を被告の自動車に接触せしめたことによるものであり、被告には何らの過失がない。

(四)仮に、被告に過失ありとするも、被告は本件事故の当夜原告との間に、本件事故による損害については、金二〇、〇〇〇円の限度においてのみ責任を負うことを約したものであるから、右限度を超える請求は失当である。

(五)原告は、本件事故車の破損を修理するため三二日間を要したと主張するが、右修理のためには二・三日程度で充分であるから、右日数を超えて原告が右自動車を休止せしめ、営業利益を喪失したとしても被告においてこれを賠償すべき限りではない。

(証拠省略)

理由

(一)原告が、タクシー業を営む株式会社であること、原告主張の日時原告会社所有の自動車と被告運転の自動車とが接触事故を起したことは当事者間に争がない。

(二)証人住田茂の証言により成立を認める甲第二号証に証人前田鶴吉、同住田茂、同峠吉男の各証言および被告本人尋問の結果(第一、二回)の一部を綜合すると、被告は右日時頃国鉄広島駅に赴くべく訴外山陽建設株式会社の小型四輪トラツク(トヨタ)を運転し、広島市内紙屋町交叉点から八丁堀方面に通ずる電車道路を東進し時速三〇粁位の速度で同市基町一番地朝日会館東南角附近にさしかかつたところ、自車の前方を同一方向に進行していた原告会社所有の営業用乗用自動車(五八年型ダツトサン。広五あ第二〇七二号)の進行状態に対する注意を怠つたため同車が客を拾うため速力を減じたのに対し適切なる避譲の措置をとることができず、被告の車の前部左側を原告の車の後部右側に衝突せしめ、原告の右自動車の車体後部に損傷を与えるにいたつたこと、被告は右事故により運転停止一カ月の行政処分をうけたことを認めることができる。右認定に反する被告本人尋問の結果(第一回)に採用することができず、他に右認定を動かすに足る証拠はない。右認定によれば、本件事故は被告の過失に基づくものということができる。

(三)よつて、進んで損害額について考える。

(イ)修理費について

真正に成立したものと認められる甲第三号証および証人西本豊の証言(第二回)によれば、原告会社は本件事故後訴外前田自動車株式会社をして前記事故車の破損を修理せしめ、昭和三三年一一月三〇日右訴外会社に対し修理代金として金三八、七〇〇円を支払つたことを認めることができる。

(ロ)営業利益の喪失について

証人前田鶴吉・同西本豊(第一、二回)の各証言を綜合すれば、原告会社は本件事故による前記自動車の破損のためその後少くとも四週間にわたりこれをタクシー営業に使用することができなかつたこと、当時右自動車による一日の営業収入は平均六、〇〇〇円であつたが、これに対し支出として人件費九〇〇円、ガソリンおよび油脂代一、一〇〇円のほか車輛の減価償却費として六三〇円を見込まねばならないことが認められる。しからば、営業上の純益は一日当り三、三七〇円であり、原告が右休止期間において喪失した得べかりし利益の額が合計九四、三六〇円となることは計算上明白である。これに対し、被告は右自動車の破損の程度では修理に右のような長期間を要するはずはなく、僅々二・三日をもつて足りるから右日数をこえる休止期間に対応する営業利益の喪失については賠償の責任がないと主張し、右前田証人の証言によつても修理自体に要した日数は約二週間であつたと認められる。しかしながら、一方右証言および成立に争ない甲第一号証によると、被告は事故の直後原告に誓約書を差し入れ即時事故車を新車と交換する方法により損害を補填することを約したにかかわらず容易にこれを履行せず放置したので、被告の履行を期待していた原告は二週間を徒過せしめられた後にはじめて事故車を修理するにいたつたことが認められ、右認定に反する被告本人尋問の結果(第一、二回)は採用することができない。してみれば、被告は右自動車の運転休止の全期間につき原告の失つた営業利益の賠償の責に任ずべきであるから被告の主張は採用できない。

(ハ)本件事故車の価格低下による損害について

証人住田茂の証言によれば、前記自動車は本件事故発生の約一カ月以前に原告が買受けたものであるところ、修理完了後においても買受価格に比し十二、三万円位の価格の低下を来したこと、しかしながら本件事故がなかつた場合においては右価格の低下は一〇万円程度に止まつたであろうことが認められる。してみると本件事故により前記自動車は修理後においても少くとも二〇、〇〇〇円の価格の低下を招いたものと認めるのが相当である。

したがつて、原告は、本件事故により右(イ)ないし(ハ)合計金一五三、〇六〇円の損害をこうむつたというべきであるから、被告はこれを賠償する義務がある。

(四)これに対し、被告は、本件事故発生直後、原・被告間において協議の結果、被告は本件事故に基く損害を金二〇、〇〇〇円の限度において填補することを約定したものであり、甲第一号証(誓約書)も右制限のもとに原告に差し入れたものであるから右限度を超える原告の請求は失当であると主張し、被告はその本人尋問(第一、二回)において右主張に符合する供述をするが、右供述はにわかに信用することができず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。よつて右抗弁は排斥を免れない。

(五)よつて、本訴請求は、金一五三、〇六〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明白な昭和三三年一二月一五日から支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による損害金の支払を求める限度において正当として認容すべきもその余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮本聖司)

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